その472 「ごまかし」のこと 2017.10.5

2017/10/05

先日ある会合の後、宴席となり、私より10歳ほど若い医師と久しぶりに会った。
互いに「おや、」「やあ、」と言いながらビールを注いだのだが、
相手は私の顔を見ながらちょっとクスクス笑っている。
私が「どうした」と聞く前に、「先生、白くなりましたね。」と言う。
白髪の事である。
失礼な奴だ、自分も今にそうなるぞ、と思ったが、「そうかあ?」と言っておいた。

 

その後、散髪屋に行くとオヤジさんから「けっこう増えたね」と言われた。
他人から続けて指摘されると、さすがに認めざるを得ない。

 

医師になってかなりの間、若く見られて信用がないように思われたのが不本意だった。
白髪が混じりだすとちょうどよいのでは、と思っていたが、
ちょうどの時期はすでに終わっていたようだ。
散髪屋のオヤジさんが、「染めるんじゃなくて、ぼかすのがあるで。」と言う。
染めると髪が伸びた時にはっきり境がわかるが、
「ぼかし」は自然に薄くなっていくので、徐々に元の状態に戻るらしい。

 

「ぼかし」をやってもらうと、初めはなんだか不自然に思える。
若作りしている政治家のようだ。
いや、政治家ではないが若作りをしているのだ。

 

「ごまかす」は辞書では、胡麻菓子から派生した動詞とある。
小麦粉に胡麻をまぜて焼いてふくらませた菓子を、胡麻胴乱といったそうだ。
胴乱は植物採集に使うカゴを思い浮かべるが、
本来は革や布で作った箱型の入れ物を指す。
鉄砲の玉を入れて持ち運んだのが最初のようだ。
菓子の中が空っぽのところが胴乱のようなので、胡麻胴乱。
それを胡麻の菓子であるから胡麻菓子と呼んだ。

 

次第に外見だけで内容の伴わないものを「胡麻菓子のようだ」と使うようになり、
動詞「ごまかす」が誕生したという話。
よって「誤魔化す」と書くのは当て字なんだそうだ。

 

私の白髪のごまかし、周囲は何も言わない。
うまくごまかせているのかどうか、
「ちょっと若くなりましたね」ぐらい誰か言わないものか。
家内は「早くやれば」と思ってたとのこと。
髪をごまかしても頭が空っぽにならないように、勉強しよう。