心の栄養
2008/09/05
20世紀の名ピアニストたちの映像を集めた、
アート・オブ・ピアノというDVDがある。
ピアニストのとらえ方に、
テクニックからみた表面的な感があるのは少し残念だが、
貴重な映像ばかりである。この中に、1943年のギレリスがいる。
第二次世界大戦後、リヒテルと共にソ連を代表し、
世界的な活躍をしたピアニストである。
このとき彼は27歳。
ソ連の兵士たちが集まる基地で、
青空のもと、ピアノを弾いている。
曲目はラフマニノフの前奏曲。
行進曲風の前後半の間に、
ロシア情緒たっぷりのメロディーがはさまる曲である。
演奏中に航空機が轟音とともにやってきて、
ギレリスも目を向けるが演奏は続けられる。
兵士たちの郷愁をなぐさめ、
また心を鼓舞するこの曲は前線の慰問に良かったようだ。
演奏の後、熱心に聴き入っていた兵士たちは拍手喝さいである。
ギレリスはソ連各地で無数の慰問演奏を行ったそうだ。
よく見るとギレリスの所作と音にややずれが見られ、
録音が後から付けられたように思える。
当時の映像としてはよく行われたことであろう。
「わらわし隊の記録」という本を読んでいる。
日中戦争のころ、昭和13年から、前線の兵士を慰問するため、
芸人たちを中国の戦地へ派遣した記録である。
芸人と言っても、現代でいうお笑い芸人とちがって、
落語家や漫才師の他に、浪曲師や小唄の師匠なども含まれていて、
爆笑させるだけの慰問団ではなかったようだ。
比較的大きな都市から、トラックで行く最前線まで、
柳家金語桜やエンタツ・アチャコ、ミスワカナらは出向いて行く。
そこで兵士たちは、心の渇きを癒すように
鈴なりになって会場に集まったという。
殺伐とした戦場で、人は本能的に笑いを求めるものらしい。
フィルムの中のソ連兵士も、
本の写真に写っている日本の兵士も、
みなスリムな体で余分な脂肪はないように見受けられる。
一方、国が主導して
メタボリックシンドロームの対策を取ろうとしている現代の日本。
まさに隔世の感がある。
コメント
もう少し前の日露戦争の頃、日本軍はビタミンB1の不足で脚気に悩まされ、ロシア軍はビタミンC不足による壊血病に悩まされていたという。
現代でも、偏った食生活を続けたケースにはビタミンB1やCの不足を見ることがある。