ジンクスのチャーハン

2010/04/11

落語の中に、「ふちの欠けた皿には、かかあがこしらえてくれた、あったけえ芋の煮っころがしがのっかっててよう、」
というくだりがあって、貧乏な長屋暮らしでも、夫婦仲むつまじく暮らす様子が描かれる話がある。
料理は温かいものは温かく、冷たいものはつめたくして出す、というのが基本だが、
ことさらに温かいものは幸せになれる。

 

時々、中華料理屋でチャーハンを食べるのだが、
これが店によってかなりの温度差があって面白い。
下の方は丸い型に入った出来あいをレンジでチンしただけだろうという、
ぬるくてパサパサしたチャーハン。店主のやる気を疑いたくなる。
この前、初めて入った店は、鉄板で作る店で、野菜などの具はごく刻み、ご飯はそんだけ?と思うくらいの少量。
大丈夫かいと思っていたが、味付けは塩コショウのほかに、おそらくウスターソースをジャブッとかけて仕上げる。
きちんと火が通り、結構うまかった。これは中の方。

 

年に一度、私を含めてグループのピアノ発表会があって、毎年3月末は緊張の日々となる。
当日の夕方、リハーサルが終わると、私は近くの中華料理屋でチャーハンを食べることにしている。
この店は、無口な主人が力強く作ってくれるので、こちらもパワーをもらえる気がする。
赤い火が中華鍋の底を大きく熱し、主人は軽々と鍋を振る。
何かスポーツをする人なのか、手首にトレーニング用のウェイトをつけているが、苦にする気配はない。
油や調味料も、チャーハンを混ぜる大きな杓子一本を使って目分量で、しかし注意深く入れていく。
仕上げは左手で鍋をグイグイッと数回煽り、右手で持つ杓子にチャーハンをポンポンと入れる。
皿の上に反転して丸いドームのチャーハンが完成する。見事な手際で、また実に熱く、うまい。
発表会のリハーサルで思わぬ不出来となることは度々で、もう今日は弾くのをやめて帰ろうかと思うこともあるし、
本番だってつまづき、度忘れ、弾き直しなどは日常茶飯事だが、
「今日のピアノはチャーハンを例年通り食べたからオーケーさ」と思うことができる。

 

このチャーハン、結構カロリーがあって教科書的には700Kcalほどである。
発表会の後の打ち上げはほどほどにしておこうと思うが、
こればかりは年に一度の緊張が解けるので、ついつい杯を重ねてカロリーオーバーになってしまう。


コメント

打ち上げで 花火のように飲み食いし
あくる日 痛風の痛み 思い知るべし