こぼれ話


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その477 すべからく 208.4.14

2018/04/14


 田舎に曾祖母の暮らした家がある。
ひばあちゃんは私が3-4歳の頃、よく遊んでくれた。
近所の女の子と一緒に、お医者さんごっこをした覚えがある。
鉛筆につける先の丸い金属のキャップがあった。
これを注射針のつもりにして、女の子がひばあちゃんの腕を伸ばし、私が前腕に鉛筆キャップをあてがって、
「お注射ですよー」と言うと、ひばあちゃんは「おお、痛い痛い」と言ってくれた。
 
 最近、そのひばあちゃんの暮らした部屋を見ることがあって、押し入れを開けてみた。
下の段に縦長の木箱が三つあった。一つは黒く塗った木箱、あとは木肌のままで、前面の蓋にそれぞれ漢字が書いてある。
それぞれ「静修」「集義」「学須静」とある。蓋には小さな出べそのような突起がはめ込まれている。
これを少し上に持ち上げて、障子をはずす要領で手前に引くと、蓋が木箱から外れる。
 
 中は二段に仕切られており、それぞれの段に和綴じの本が二十冊ほど横積みにされていた。
収められていたのは、春秋左氏傳講義、十八史略、日本外史、書経集註、国史略など。
その他、お楽しみとして絵入りの四谷怪談などもあった。
おそらく、曾祖父やその前の代の祖先が勉強に使ったものであろう。
明治生まれの祖父は学校に通った世代だと思うが、これらの書物も勉強したのではないか。
 
 ところで、蓋に書いてある文字は何を意味するのだろうか。
「静修」はわかる気がする。静かに勉強しましょう、みたいなところか。
「集義」は講義の中身を集める?「学須静」はよくわからん。
 
 辞書によれば、静修はほぼ想像通り。
「集義」は孟子にある言葉で、義を積み重ねること、行うことがことごとく義に合うこと。
「学須静」は蜀志・諸葛亮にある言葉で、「学はすべからく静なるべし」と読む。
学問をするのには、心を静め専念して従事しなければならないとのこと。
 
 書物を取り出す前にこの蓋の文字を見て「心静かに励むべし」と祖先が訓辞を垂れたということか。
あるいは、これらの文字は当時の書物の箱によく書かれる言葉であったのか。
 
 そういえば、私の机の前にも、ホームページに載せる写真のサイズやスキャンのメモに交じって、
20年ほど前に書いたのか、「博覧強記」の文字がある。
実際は「少覧即忘」少し見るけどすぐに忘れる、になっている。